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2019.12.17 / 学校生活 /

全校礼拝 糟谷先生

聖書 ローマ人への手紙 8章31-32

 山梨英和は創立130年、甲府市も市制130年を迎えました。甲府市教育委員会との連携で、私は来週、北口の藤村記念館で山梨英和の歴史についてお話しすることになっています。そのために、夏から山梨英和の歴史について調べました。大まかには知っていると思っていましたが、初めて知ること、新しくわかったことがたくさんありました。

 中学生の皆さんは、学園祭で学校の歴史を調べた時に、図書館にある120周年、100周年、80周年の記念誌を見たかもしれません。私もそれを読んでいて、その前の50周年の記念誌があることを知りました。今から80年前のことです。この本は図書館にはありません。きっと、戦争の時、校舎が空襲で壊されたので燃えてしまった本も多かったのではないでしょうか。50周年記念誌は資料室にあったのですが、どうしても手にしたいと思い、インターネットで検索しました。すると、ネットオークションに出品されており、不思議なことに、その日が入札締め切りでした。私しか入札した人はいなかったので、数日後、50周年記念誌は私のもとに届きました。裏表紙に名前が書いてありました。その持ち主は、私の家族の知人でした。この本を手にした1939年、その人は中学1年生だったはずです。80年の時を超えて、当時の中学1年生の持ち物が私の手に届きました。この時、私は自分が130年の歴史の中にあることをはじめて実感しました。

 創立50周年を迎えた時の校長はミス・グリンバンクでした。この年、世界では第二次世界大戦が始まり、日本はすでに日中戦争を始めていました。戦争の色が次第に濃くなる中で、この年、東洋英和も静岡英和も山梨英和も、校長がカナダ人の宣教師から日本人にかわりました。カナダ合同教会は、日本人の校長が誕生するのは長年の希望だった、と言いましたが、全体主義を強め戦争に向かう日本の状況が影響していたと考えられます。

 いよいよ戦争が激しくなり、外国人宣教師たちは敵の国の人とみなされて学校にいられなくなりました。それでも英和に残り続けたグリンバンク先生は、1942年、特高警察につかまり横浜に連れていかれ監禁され、1943年にはカナダに帰されてしまったのです。

 実は、そのあとのグリンバンク先生たちの働きが、今年10月、NHKの番組で放送されました。ETV特集「シリーズ日系人強制収容と現代 暗闇の中の希望」というタイトルの番組です。カナダでは、日系人を強制的に移住させ、1万人が収容所に入れられました。教育の機会を奪われた日系人の高校生のために、グリンバンク先生たちは収容所の中に学校を作ろうと努力をしました。学校ができると、ご自身も教師として働かれました。先生との出会いで、人間としての尊厳を取り戻し、生きる希望をもらった人たちがたくさんいました。グリンバンク先生は、自分をつらい目に合わせた日本を嫌いになるどころか、日系の子どもたちのために一生懸命に働かれたのです。グリンバンク先生が教えた生徒たちはもう亡くなっていて取材ができなかったために、番組ではもう一人の宣教師のハミルトン先生を紹介していました。でも、画面にグリンバンク先生の写真が写った時、私は山梨英和に関わるものとして、ほんとうに誇らしい気持ちになりました。グリンバンク先生たちは、カナダにおられる間も愛の業を実践しておられたからです。

 逆境にあってもこのように愛の業に励まれた強さは、どこから来るのでしょうか。今日読んでいただいた聖書の個所には、「神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか」とあります。神さまはたったひとりのこどもを私たちにくださり、十字架につけて、私たちの罪をあがなわれました。そんなに大きな贈り物をくださる神さまが味方なのだから、私たちは大丈夫、という強い信仰を宣教師の先生方は持っていました。心が弱くなる時に、私たちもそう思えるようになりたいと思います。

 創立50周年を目前にして、最初の校主、新海栄太郎さんが亡くなりました。50周年に新海栄太郎の記念碑が作られ除幕式を行ったと50周年誌に書かれています。そこに、同窓生が新海栄太郎の思い出を書いています。たった6人の生徒から始まった英和が大きくなって、卒業生の中には学者や教育者になる人が出てきました。最近、英和はすごいですね、と同窓生が言うと、新海栄太郎はこう答えたそうです。

「卒業生の中から教育家や学者の出ることは私の最も欣快とする所だ。然しそれは数の一部にのみ望み得べき事である。私はむしろ、あの山梨英和女学校に学ばるる姉妹方は、ひとりのこらず愛の実践者となって貰いたいのだ。」

 つまり、学者や教育者になる人は限られていますが、英和の卒業生全員に、愛を実践する人になってほしい、ということです。

 学校をつくった人たちのこの思いが、50年後のグリンバンク先生たちにも引き継がれ実践されていったように、私たちもまた引き継いでいく責任があります。創立130周年のこの年に山梨英和に関わる私たちひとりひとりが、神さまの恵みに支えられて、愛を実践する人になれるようにと願っています。

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