放送礼拝 保健委員会
ヨハネによる福音書16章33節
「心の復興ってたぶん、町を作り直すよりもずっと時間がかかる」
これは、東日本大震災から5年経った時、語り部として活動していた高校生の言葉がまとめられている「16歳の語り部」という本に書かれていました。私はこの本を通して、今の自分とほぼ同じ年齢の人が、二度と同じ悲しみが繰り返されることのないようにと、前を向いて、自分自身の言葉で震災の出来事を伝えようとしてくれているということを知りました。
本の中で私が特に印象的だった言葉は、「震災時、他の地域から送られてきた手紙に、『頑張れ』と書かれているのをみて、もうすでに十分頑張っているのに、余計に追い詰められた」というものです。亡くなった人の分まで生きていくという重い覚悟の中で生きるということに対する苦しい感覚は、実際に体験しないと分からないものであり、私自身、ここに書か れている感情の全てを理解することはできませんでしたが、この方々の立場になって考えてみると、言葉に表せない苦しい気持ちになりました。
一方で、「『もう十分頑張っているのは知っているから、もう必要以上に頑張らないで』という言葉に救われた」とも書いてありました。人々に寄り添う温かい言葉だと思いました。私もこのような、ひとごとではなく、同じ世界にいるみんなで乗り越えようとする気持ちを大切にしたいと感じました。
震災から9年半を過ぎた今年、新型ウイルスの影響で修学旅行の行き先を東京から東北にかえ、「震災学習」をする学校が増えていると聞きます。震災を覚えていない高校生が、覚えていないから語ってはいけない、ということはないと、語り部としてこの修学旅行の「震災学習」のために一役を担っているところもあるそうです。 私も今この年齢になり改めて、悲劇を悲劇で終わらせず、教訓として受け継いでいきたいと思いました。
実際、誰かの時間がとまっていても、社会は何事もなかったかのように進んでいきます。今 もなお、福島県には、放射能汚染の問題で立ち入りが厳しく制限される「帰還困難区域」に指定されている場所があります。私はこの「16歳の語り部」を読んで、目に見えない恐怖という点では、現代猛威をふるっている「新型ウイルスの感染」の現状と似ていると思いました。当たり前の日常が、ある日突然、私たちの大切なものを奪っていきます。
不安な出来事の多い日々ですが、今日の聖書の箇所をもう一度見てください。神様は、「私たちがいつも不安の中にいる」事を知っておられます。そして、その不安をなくすことや逃げることではなく、神様を信頼しながら、勇気を持って不安と向き合うことの大切さを教えてくれています。だからこそ、私も、今ここに生きている奇跡に感謝し、一日一日を大切に生きていきたいです。





